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釧路地方裁判所 昭和38年(た)1号 判決 1964年3月30日

被告人 湊藤一

決  定

(請求人氏名略)

右の者に対する母船式漁業取締規則違反被告事件につき、昭和三七年一〇月二四当裁判所が言い渡した有罪判決に対し被告人は控訴並びに上告の申立をなしていずれも棄却され、右有罪判決は確定したところ、この確定判決に対し右の者から再審の請求があつたから当裁判所は、請求人及び検察官の意見を聴いたうえ、次のとおり決定する。

主文

本件再審の請求を棄却する。

理由

一、本件再審請求の要旨

(一)  請求人は母船式漁業取締規則違反被告事件につき、当裁判所において「第一、請求人(被告人)は漁船第三柚丸(八四・二三屯)を傭船し自ら同船漁撈長となつていたもの、橋谷田英雄(相被告人)は同船船長となつていたものであるが、右両名は共謀のうえ、母船式でない同船にて流網を使い、昭和三七年六月一一日頃より同月二〇日頃までの間、北緯五二度、東経一五四度附近のオホーツク海域において、さけ、ます、合計約一三、六〇〇瓩、時価合計金二、三八五、七四五円相当を採捕しもつて母船式によらないでさけ、ます漁業を営んだ。第二、請求人(被告人)は漁船第一七久栄丸(二八・九四屯)を傭船し自ら同船船長兼漁撈長として母船式でない同船にて流網を使い昭和三七年七月二六日より翌二七日までの間、北緯五一度、東経一五二度附近のオホーツク海域において、さけ約三〇尾、ます約一、六〇〇尾を、同年八月一日から翌二日までの間、北緯五〇度、東経一五三度附近のオホーツク海域において、さけ約一〇尾ます約四〇〇尾を採捕しもつて母船式によらないでさけ、ます漁業を営んだ。」との理由で (1)請求人(被告人)を懲役六月に処する。(2)司法警察員押収にかかる筋子四五四・八瓩の換価代金二七五、七四五円は請求人(被告人)、前記橋谷田英雄相(被告人)両名から、同じくさけ二〇瓩、ます二九七瓩の換価代金合計六三、八四五円は請求人(被告人)から各没収する。(3)請求人(被告人)から金二、一一〇、〇〇〇円を追徴する旨の判決を受け、これに対し控訴の申立をしたが、控訴棄却され、次で上告の申立をしたが、昭和三八年七月一六日上告棄却の決定があり、右第一審の判決は確定するに至つた。

(二)  しかしながら、請求人は、右第三柚丸及び第一七久栄丸を傭船したことはなく、又右両漁船による漁業の経営者でもなかつたものであり、傭船主、経営者等に雇はれた単なる漁撈長若しくは船長として右両漁船に乗組み、前記有罪判決の理由中にあるようなさけ、ます漁業をしたにすぎなかつたものである。即ち前者については傭船者は及川喜代治、該漁業の経営者は右及川並びに櫛引鉄也及び大野松蔵、請求人は右及川から雇はれた単なる漁撈長、後者においては、船主及び該漁業の経営者は石塚久雄、請求人は右石塚から雇はれた単なる船長兼漁撈長であつたものである。

然るに、請求人は右及川、石塚の両名の依頼により罪を一身に引受けるべく前記事情を秘して、司法警察員、検察官に対しては勿論公判廷においても自己が傭船主である等前記有罪判決の理由となつた犯罪事実にそう虚偽の自白をした結果、前記のように傭船主として有罪判決を受けるに至つたものである。

(三)  而して前記有罪判決確定後、前記及川、大野、櫛引、石塚等につき前記真相にそつた事実により母船式漁業取締規則違反被告事件として函館地方裁判所に対して起訴があり、昭和三九年一月一三日同裁判所において右大野及び櫛引に対し各懲役六月、三年間刑の執行猶予、両名から金二一一万円の追徴との判決の言渡があり、その余の者については同裁判所で目下審理中であるが、右各被告事件においてあらたに提出された証拠により前記真相は明かである。

(四)  以上のような次第であるから、請求人につき前記原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき(少くとも請求人に対する前記高額の追徴が不当であること明かである)明かな証拠があらたに発見された場合に該当するというべく、本件再審の請求をなすに及んだものである。

二、当裁判所の判断

(一)  本件関係記録によると請求人主張の一、(一)の事実が認められる。

(二)  ところで刑事訴訟法第四三五条第六号にいう「原判決において認めた罪より軽い罪」とは原判決が認めた犯罪よりもその法定刑の軽い他の犯罪をいうものと解すべきところ、仮に請求人がその主張の如く傭船主等に雇はれた単なる船長若しくは漁撈長として第三柚丸及び第一七久栄丸に乗組み、前記有罪判決の理由中にあるようなさけ、ます漁業をしたにすぎなかつたとしても、前記有罪判決と同様母船式漁業取締規則違反の罪責を負うこと明かであるから、「原判決において認めた罪より軽い罪」と認めることができないこと勿論であり、更に請求人は追徴の不当を主張するけれども、再審の請求は、犯罪事実の認定に関することを要し、追徴に関する不当不法を理由としてこれが請求をなすことは許さないものと解すべく、彼つて請求人の右主張も理由がない。

(三)  のみならず本案の審理において、他人の罪を背負うためことさらにその証拠があることを知りながらこれを提出しないで有罪判決確定後その証拠を援用して再審の請求する場合は前同号にいう「証拠をあらたに発見したとき」にあたらないものと解すべく、これを本件につきみるに請求人は傭船主若しくは船主等に依頼され、本案の捜査及び公判の段階において同人等の罪を一身に引受けるべく、同人等のことを秘し、自己が傭船主である等前記有罪判決の理由となつた犯罪事実にそう虚偽の自白をした旨主張して本件再審の申立をしているのであるから、「証拠をあらたに発見したとき」にあたらないこと明かというべきである。

(四)  よつて本件再審請求は理由がないので、刑事訴訟法第四四七条第一項により主文のとおり決定する。

(裁判官 柏原允)

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